シリーズ中国史? 封神演義と殷周革命


■序文に代えて
封神演義は中国の古典文学の一つであり、古代王朝の交替という史実を骨子としている。ここでは物語の封神演義と歴史の殷周革命について簡単に語りたいと思う。

白話文学の時代
16世紀、明代は小説が流行した時代で、口語体(白話体)で書かれているので白話小説白話文学と呼ばれている。
封神演義と同時代の小説として、西遊記水滸伝三国志演義金瓶梅(以上四大奇書)、平妖伝等があった。これらはほとんどが作者や成立年代が不明で、それぞれ、影響を相受けながら創られたと思われる。封神演義に関しては西遊記水滸伝に共通するキャラクターやモチーフが表れるので、互いに影響を及ぼしながら成立したと見受けられている。

道教の神々になる通俗文学のキャラクターたち
封神演義は中国では封神榜とか封神榜演義、商周演義とか呼ばれ、登場する仙人や神々は現在、中国本土や台湾、マレーシア等の道教文化圏において民衆の尊崇を受けている。例えば、元始天尊道教の主神クラスだし、太公望石敢当として信仰されているし、那咤は三壇会海大神。西遊記孫悟空も斉天大聖に封じられ篤い崇拝を受ける有名神だ。
楊センは四川省特有の神、二郎神(二郎真君)である。

■封神榜と武王伐紂
古代中国。殷の紂王は女カ娘々(女神)の廟に詣でたおり、壁に淫靡な詩を書き付け、激怒した女神が殷王朝の命数を縮めるため、紂王の元に妖狐等を派遣するところから物語が始まる。これに乗っかかったのが仙人の一派である闡教だった。仙人の世界では人間から昇仙した闡教と動物や器物から昇仙した截教が対立していたのだが、今回、殷王朝を周が滅ぼすという機会を利用して截教側を皆殺しにしようと計画した。これが「封神榜」計画である。まんまと思惑に乗せられ、截教の仙人は殷に味方する。闡教から周に味方した太公望は周の武王の軍師・封神の司祭として周軍を率いて殷と截教の者たちを滅ぼしていく。
殺された者の魂は、新設された「神界」に押し込められ新しい神々に任命される。すなわち封神(神に封ずる)である。これが今の道教の神々なのだ、という事物起源説話ともいえるだろう。
元代、武王伐紂(周の武王が殷の紂王を伐つ)故事に基づく武王伐紂平話という歴史小説が書かれたが妖怪や仙人は干渉してこない内容で、明代の西遊記封神演義のように超自然的存在を描いた幻想文学は中国では神怪小説という。

■仙人の来歴
封神演義の仙人のうち、赤松子、広成子、太上老君などは、晋代の「神仙伝」(葛洪著)に見える古代の神仙たちで、李靖は実在した唐の武将・李靖がモデルで毘沙門天の化身という伝説があり、那咤はその子であるという伝承があった。
太公望姜子牙は史実の人物だが、もちろん、封神演義の設定はフィクションである。
では、実際の殷と周の戦いはどうだったのか。
次にそれを見ていこうと思う。(続く)

※この記事は中野美代子氏の著書やWikipediaを参照にしています。